研究班・課題の成果

図像資料の体系化と情報発信

1班 「図像資料の体系化と情報発信」総括

研究経過

1班は、財団法人日本常民文化研究所が編纂した世界に誇るべき『絵巻物による日本常民生活絵引』全5巻を前提に、絵引という、図像を活用し、図像を窓口にして文化を把握するという、世界的に類例のない編纂方式を、普遍的な編纂方法として提示することを構想して発足した。旧来の言葉を窓口にして事物・事象を知る字引に対して、図像を窓口にして事物・事象を知る方法が絵引である。『絵巻物による日本常民生活絵引』を引き継ぎ、以下の3つの課題を掲げて、研究活動を発足させた。すなわち、課題1 『絵巻物による日本常民生活絵引』の英訳を中心としマルチ言語版の編纂と出版、課題2 『日本近世・近代生活絵引』の編纂とその一部の刊行開始、課題3 『東アジア生活絵引』の編纂作業である。

なお、日本常民文化研究所が編纂したのは『絵巻物による日本常民生活絵引』とあるように「常民生活絵引」であったが、私どもの21世紀COEプログラムは「常民生活絵引」ではなく、単なる「生活絵引」とした。常民は柳田国男が用い、民俗学の基本的な概念になったが、常民にこめられた意味は基本的に一国民俗学の枠組みであった。世界的な研究を推進するには不適切な言葉であると判断し、本プログラムでは常民を採用せず、単に生活とした。

1班の活動は終始班としての活動を維持してきた。班員が課題に分属する方式をとらず、いずれの課題にもかかわる方式を採用した。班としての研究会を頻繁に開催し、そこで各課題の問題や成果を報告・検討してきた。その結果を具体化する4年度からは、各課題担当者を決め、それぞれ別れて研究作業を進めたが、完全に分離するのでなく、多くの班員が複数の課題に関わることで、班としての一体性の維持に努めるとともに、引き続き班研究会を開催した。

1班としては公開ワークショップや講師を招いての公開研究会を開催して、研究実績を挙げている研究者からさまざまな刺激を受け、示唆を得る機会を設けるとともに、自分たちがおこなっている研究の内容や進捗状況を広く披露し、批判を得る機会を作った。

各人は自己の研究課題を班の課題との関連で設定し、その具体的な研究のために日本内外に調査に赴いた。また、国内の博物館における図像資料の企画展示に際し、展示資料の確認調査を班としておこなった。これらの調査も個人で個別に行うのでなく、班として実施し、また課題を超えて実施すると共に、課題達成のために明確な目標を設定して行った。

理科系の共同研究は、実験装置・分析装置を共同利用して、研究成果も共同のものとして生み出され、学術雑誌にその成果が発表される場合も、参画した研究者の連名で行われるのが一般的であるが、人文系は個人的な研究活動として展開し、その成果も個人の名前で発表される。1班では、絵引編纂という共同課題を追求し、その成果も個人に還元するのではなく、共同研究としての成果としてまとまった絵引を完成させることに努力を傾注した。作業としては分担はするが、その内容を共同で検討し、共同の研究成果として、絵引を編纂し、それを刊行することを目指した。

研究成果

1班としての成果は、先ず各課題ごとに刊行された絵引である。『マルチ言語版絵巻物による日本常民生活絵引』2冊、『日本近世生活絵引』3冊、『東アジア生活絵引』2冊と、全部で7冊におよぶ。先行して研究を進めたマルチ言語版の編纂過程で得た知見を、東アジア生活絵引に活用し、世界的に利用可能な絵引を目指して研究を行った。

COE研究員(PD・RA)の支援を得て、図像資料に関する文献の収集とその目録化を進め、『図像文献書誌情報目録』および『図像研究文献目録』を刊行した。前者は、近世・近代に描かれた図像が、近代の出版物のなかに再録されたり復刻されたものについての書誌情報であり、今までにないデータベースである。

さらに、生活絵引データベースの構築を進め、その一部をホームページ上で公開した。公開できたのは、『日本近世生活絵引』のうち東海道編の副産物としての『東海道名所図会』絵引データベース、『東アジア生活絵引』のうち朝鮮風俗画編の副産物としての『朝鮮風俗画』絵引データベースである。これらは、従来の文字による検索に加えて、図像からの検索を可能にする「絵引検索」を設定したところに特色がある。

1班・課題

研究者(2008年3月31日 現在)

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