研究班・課題の成果

図像資料の体系化と情報発信

課題2 『日本近世・近代生活絵引』の編纂

『絵巻物による日本常民生活絵引』の偉大な成果を前提に、かつて日本常民文化研究所が構想しつつも実現できなかった、日本近世・近代の生活絵引の編纂を課題にした。当初は近世生活絵引と近代生活絵引を並行して編纂を進める予定にしていたが、実際の編纂計画を策定する中で困難が予想されたので、今回の21世紀COEプログラムの5年間では日本近世生活絵引の編纂に集中し、日本近代生活絵引の編纂は他日を期すことにした。

近世生活絵引きについては、北海道・蝦夷地編、日本本土編、琉球編という大枠での編纂を計画し、北海道・蝦夷地編について継続的に図像資料の所在調査を進め、図像も収集し、その中から絵引編纂に適切な図像を選択して、絵引編纂を進めた。中心となったのは、菅江真澄の描いた図像である。他方、琉球編については、図像資料所在調査を進め、その所在情報をほぼ入手したが、並行しての調査は困難と判断し、北海道・蝦夷地の編纂を終了後におこなうことにした。日本本土については膨大な図像資料が存在し、それをどのように絵引きにまとめるかは大きな問題であり、検討を重ねた結果、神奈川大学日本常民文化研究所が所蔵する図像資料を対象にすることにしたが、検討の結果、同じ種類の図像で、より内容が豊かな表現描写がある『農業図絵』を用いて北陸編の編纂をおこなうこと、また21世紀COEプログラムが入手した『東海道名所図会』による絵引編纂をおこなうことにした。

日本近世生活絵引は、以上のように、北海道・蝦夷地編、北陸編、東海道編の3冊の絵引編纂を進めた。『絵巻物による日本常民生活絵引』に倣い、対象作品から生活文化を描いている部分を適格に切り取り、そこに描かれている事物、また人物の行為をとりだして番号をつけ、その事物や行為を示す言葉をキャプションとして表示した。近世に描かれた図像を用いて、近世の生活絵引を編纂するのであるから、表示する語彙も近世に用いられたものをできるだけ確認しつつ掲げるようにしたが、これが予想外に困難な作業であり、実際には近世にその地で何と呼んでいたか分からない場合が多く、一般的な現代表現を採用せざるを得なかったキャプションも多い。またアイヌの人々の生活文化を日本語で表現することも非常に困難な問題であった。これら試行錯誤を通しての検討において共同研究の真価が発揮された。この間、講師を招いての各種研究会を開催し、現地調査を実施した。またそれぞれの資料について研究を重ね、蓄積のある多くの研究者の教示を得た。

ページの先頭へ戻る