研究班・課題の成果

環境と景観の資料化と体系化

課題3 環境に刻印された人間活動および災害の痕跡解読

課題3においては、戦争、占領、災害などで消滅した景観を写真を多用することで復元し、その変容の意味を問うた。研究課題として掲げる景観のみならず、研究素材として用いた写真類それ自体も「非文字」として位置づけられるべきものである。これら素材として用いた写真類が作成された時代は、撮影する主体と対象との間に政治的・社会的緊張関係を孕む1920年~30年であった。したがって、写真に込められた意図や意思をその背景を踏まえて読み解くことがまず必要とされた。海外神社跡地、租界研究班はともに現地調査、聞取りなどをおこない、戦争による侵略、占領以前の原風景としての景観が、占領後どの様な経緯を経て変容したのかその要因を分析した。災害痕跡班はおもに関東大震災の写真絵葉書類を収集し、地図に落とすことを通して、それらが特定の対象に集中すること、さらにはこれら絵葉書写真類が関東大震災に関する人々の震災像をひとつの形に収斂させていくことを検証した。

課題3の研究総括においては、人類文化としての非文字資料は、文字資料に対立的に存在するものではなく、文化総体のなかで補完関係にあることが研究成果において実証され、再確認された。また、それぞれのグループが追求する課題に合わせた写真類のデータベース化を図り、公開することにした。

海外神社研究組:海外神社跡地調査を2003年度旧樺太南西部(12社)、2004年度旧南洋群島(20社)、2005年度旧朝鮮(18社)、2006年度旧満州満鉄付属地(10社)をおこなった。 データベース構築のために、海外神社の写真、地図、絵葉書などを収集し、また、実地調査した跡地については実測図を作成して、海外神社「跡地」に関するデータベースの作成をおこなった。

租界研究組:主として中国における旧日本租界に関する現地調査を漢口、上海、天津、青島などでおこない、台湾の国史館、中央研究院、上海市当案館などで資料の収集を行なってきた。それらの活動の成果を発表すべく、2007年には「中国における日本租界研究」、「中国進出の日本企業とその建築-戦前の紡績業を事例として」の2度のワークショップを開いた。戦前中国の日本租界関連データベースの作成をおこなった。豊臣秀吉の朝鮮出兵時に建造された倭城の性格について、「朝鮮蔚山合戦之図」等の分析をおこなった。

災害痕跡組:幕末から関東大震災に至る70年間ほどの期間の災害に関わる絵図、写真を収集し、災害メディアとしての歴史的特徴についての分析をおこない、成果論文を発表した。また、収集資料に基づく2件のデータベースを作成した。2005年度には近世・近代移行期のメディアに関する専門家によるシンポジウム開催、2006年には「歴史災害と都市」についての立命館大学とのジョイントワークショップ開催、報告書を作成した。2007年「『名所江戸百景』と江戸地震」データベースをホームページに掲載、2008年「関東大震災写真・地図と写真のデータベース」を作成した。

ページの先頭へ戻る